妻の抗いがたい魔力、いいえ魅力
こんにちは、ダンディです。
昨日の続きを書いていきます。
若い女性宿泊客は、彼氏の誕生日のお祝いをサプライズで演出して驚かせようと、何日も前から彼女なりに一生懸命に考え、予約の際もメッセージをメールや予約の備考欄にケーキを出すタイミングまで書き込んでいたそうです。
彼氏の大好きなケーキも、彼氏に見つからないように必死に隠してホテルに持ち込み、彼氏がお風呂に行った隙にフロントに預け、夕食時にデザートが出た後で、ロウソクの火が灯されたケーキが出てくる……そこで彼氏にプレゼントを渡す……そんなサプライズだったそうです。
メールにも備考欄にも書いた。
フロントへも直接ケーキを渡した。
彼女の準備は万端だった。
しかし、事件は起きてしまった。
二人のテーブルは、私たちのテーブルの隣の隣の隣。
隣の隣の隣といっても、表情が確認できるくらい近い。
二人の食事担当のスタッフに代わり、支配人らしき男性が何度も頭を下げてお詫びをしていた。
誕生日を迎えた本人である男性は笑顔だったが、サプライズを企画した女性はまだ俯いていた。
男性は納得したうえで、支配人を下がらせた。
ここから物語は動き出す。
妻 「さぁ、元総支配人。あなたならどうするの?」
私 「俺なら?うーん、謝るしかないよな」
妻 「それだけ?」
妻 「ふーん、呑気なものね元総支配人も」
妻は手を挙げて、係をテーブルに呼び「支配人をここに来るように言って」と言った。
支配人は、(また何かミスがあったのか)という緊張の面持ちでやって来た。
妻 「フルボトルの美味しい赤ワインを向こうのテーブルにプレゼントして」
私 「おいおい、大丈夫か?」
妻 「ワインは私たちからと。支配人が持って行ってくださいね」
支配人 「かしこまりました。ありがとうございます」
支配人が若い二人の席にワインを持って行き、私たちの席を指しながら二人に案内した。
若い二人は、驚いた表情をしていたが、二人そろって会釈してきた。
妻はウィンクして応えた。
夕食会場から一組、二組と席を立ち始めた。
会場には若い旅人たちが五、六組しか残っていなかった。
すると、若い二人が私たちの席に、ワインのお礼をしにやって来た。
若い女性 「ワインありがとうございます」
妻 「大浴場で一緒だったの覚えてる?」
若い女性 「???……思い出しました。背中を流したあった……」
妻 「そう、私」
二人は大笑いしている。
妻 「ケーキ食べた?」
若い女性 「まだですけど」
妻 「こっちに持ってらっしゃい」
彼氏が、ケーキを私たちのテーブルに持って来た。
妻 「ほら、元総支配人、得意の歌をお願い」
歌が得意ではないが、元来サプライズ演出が大好きな元総支配人である。
私は席を立ち、「恐れ入りますが、若い二人のために、よかったら一緒に歌っていただけたら幸いです。ほら、支配人も、スタッフの皆さんもこっちに来てよ」
夕食会場は若い旅人たちばかり数組だったので、皆が気持ちよく賛同してくれた。
「照明を暗くしましょうよ」
「輪になりましょうよ」
「ほら、二人は真ん中に」
あちこちから演出を楽しむ若い旅人たちの声が聞こえた。
おいおい、最近の若者も捨てたもんじゃないぞ!!!
旅人たち、旅館のスタッフたちみんなで彼氏のために『HAPPY BIRTHDAY』を大合唱した。
彼女は泣きだした。今度はうれし涙だ。
主と客人たち、お互いが誠意を尽くしあう。
まさしく、これが一期一会だ。
まだ、この話は続きます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。